住宅写真という資産をAIで利活用し、工務店とお客様をつなぐ新たなビジネスを創造

株式会社札促社様

目次

札幌を拠点に、住宅雑誌「Replan」の発行や、広告・パンフレットの制作等、幅広い事業を手がける株式会社札促社様では、自社の資産を有効活用して競合他社との差別化を図るために、運営する住宅情報ポータルサイトにAIを導入し、家を建てたいユーザーと、工務店や建築家を住宅写真を通してつなげるマッチング機能の提供を開始しました。

同社代表の三木様と、今回の開発プロジェクトを担当された執行役員の藏本様に、AI導入の経緯や開発時の工夫、今後の期待などを伺いました。

【導入前の課題】
・運営してきた住宅情報ポータルサイトをリニューアルし、機能強化により他サイトとの差別化を図りたかった
・30年以上にわたって撮影してきた住宅写真という資産を有効活用したかった

【課題解決へのアプローチ】
ポータルサイトを訪問したユーザーが、様々な住宅実例の中から好きな写真を選択するだけで好みに合った工務店や建築家を推薦するAIを開発し、「AIお好み診断」という機能としてサイトに実装

【使用AIエンジン】
画像系AIエンジン「visee」

【導入後の成果】
ポータルサイトでのユーザー登録や資料請求が増加。またシステムとして他社への転用販売も視野に入れている。

運営する住宅情報ポータルサイトの競争力強化を目指しAIに着目

Q. はじめに、御社が手がけているReplan(リプラン)事業について教えてください。

藏本様:弊社は住宅雑誌「Replan」を1988年に創刊しました。30年以上にわたって北海道で季刊誌として発行するほか、東北6県を対象とする東北版や、関東版、関西版まで拡大しており、「住む」「暮らす」をより良くするための情報を皆様に提供しています。またそこから派生したReplanWebマガジン(https://www.replan.ne.jp/)や、住宅情報のポータルサイトの運営なども手がけています。

Q. 今回AIを導入されたのは、ポータルサイトですね。

藏本様:2019年に、地域で活躍する工務店・建築家とその住宅実例を数多く掲載するお役立ちサイト「iLoie(イロイエ)」を立ち上げました。

弊社のクライアントである、性能やデザインにこだわる志の高い工務店や設計事務所と、住宅を建てたいユーザーをつなげる役割としてiLoieを運営していたのですが、世の中には競合相手となる住宅関連のポータルサイトがたくさんありますので、ただ住宅写真を掲載しているだけではなかなか難しいとも感じていました。

そんな中で、取引先であるパラシュート株式会社さんからAIの活用をご提案いただきました。iLoieに掲載されているたくさんの住宅写真の中から好みの写真をユーザーが選択していくと、嗜好にあった工務店や建築家を提案してくれるレコメンドAIを開発してサイトに導入しようというものです。30数年にわたって蓄積してきた住宅写真という弊社の資産とAIを組み合わせたら面白いことができそうだなと思ったのと、この企画が経産省の事業再構築補助金に採択されたため、ユーザーとクライアントのマッチング機能を持たせたサイト「Replan SUMAIナビ」としてリニューアルすることにしました。

三木様:弊社では、雑誌に掲載するための住宅写真を借りるのではなく、実際にスタッフが訪問して撮影させていただき、作り手の想いがより伝わり、より読者の心に刺さる写真というものを追求してきました。

写真を介したコミュニケーションは本当に直感的で嘘がつけません。「この空間は本当に気持ち良い」とか“心で”感じるんですよね。そうした感覚的な部分をAIがどのように感受してくれるのか、まったく未知の領域でしたが、我々の重要な資産である住宅写真が新たなツールとなり多くの人に使っていただき、それがまた資産になっていくと非常にうれしいですし、なんとか本格的に事業化できたらと考えました。

代表取締役社長 三木 奎吾 様

自動タグ付けAIと推薦AIを開発。“感覚”をいかにタグで再現するか

Q. 今回のプロジェクトがどのように進んできたのかをお聞かせください。

藏本様:2022年の年始頃に事業再構築事業者として採択されてからチームビルディングを進めて、実質的にスタートしたのは4月頃です。今回の企画をご提案いただいたパラシュートさん、AI開発担当の調和技研さん、iLoieを開発したシステム会社さんという4社によるプロジェクトチームが顔合わせして、どのようなスケジュールで進めていくかを決めていきました。

AI開発の段取りについてまったく分からない状態でしたので、調和技研さんにリードしていただき、まずはAIの構築から着手することにしました。AI自体の開発は12月頃まで続き、そこからサイトやデータベースの改修をシステム会社さんと進めて2023年6月に「Replan SUMAIナビ」としてリニューアルローンチして、「AIお好み診断」機能を提供しています。

「Replan SUMAIナビ」(https://www.sumai-navi.jp/)

Q. 「AIお好み診断」ではどのようなAIが使われているのでしょうか?

藏本様:今回の取り組みでは、データを作成・蓄積するための自動タグ付けAIと、データ活用のための推薦AIという2種類のAIを開発しました。

自動タグ付けAIは、サイトに掲載している住宅写真に対して、「場所」や「スタイル」「感情」などに関するタグを自動的に付与するもので、これを活用して住宅写真のデータベースを構築しました。

もう一つの推薦AIは、ユーザーがサイト上で好きな住宅写真をいくつか選択していくと、写真に付与されているタグを手がかりに、データベースの中からユーザーの好みに合いそうな住宅写真や工務店・建築家を推薦するというものです。これによって、ユーザーと工務店や建築家を精度高くマッチングすることを目指しました。

AI診断においてユーザーが好みの写真を選択していく

Q. タグ付けが今回のAI開発のキモになりそうですね。

藏本様:タグ付けについては、調和技研さんと相談しながらいろいろと工夫しました。

「場所」のタグについては、階段なのか、外観なのか、庭なのか、人が見れば大体判断がつきます。

一方で、家のデザインや雰囲気などを表す「スタイル」タグについてはどのようにタグ付けするのが良いのか試行錯誤しました。例えば、北欧風の家、シンプルな家といっても、人によって抱くイメージや認識が結構違うので、そのあたりはやはり難しかったですね。

「感情」タグも、狭くて落ち着くとか、広くて開放感があるとか、そうした感情を表すために、写真からどう感じるか、自分がその住宅に実際にいたらどう感じるか、といった視点でタグに落とし込んでいきました。

まだすべてのタグを反映することはできていませんが、写真を見た人が感じるであろう体験をなんとかタグに含ませようと努力しました。

Q. 現時点までの成果物に対する満足度や評価をお聞かせください。

藏本様:AIの精度に関しては本当に難しくて、まだやり切れていない部分もありますが、現時点でもAIが推奨する写真が大きく間違っていることはありません。人間でも判断が難しい様々な写真が存在する中で、このレベルの精度に到達できたことは大変良かったと感じていますし、他社にはない面白いものができたのかなと思います。

調和技研さんによるプロジェクトの進行だったり、スケジュールのマネジメントに関しては、仕事をする上でとてもやりやすかったです。要所要所でわからないことやポイントなどを細かく教えていただいたり、技術面の詳しい話を説明いただいて、とてもスムーズに進行できたと思っています。

執行役員 制作局 Web事業部 マネージャー 藏本 高士 様

三木様:タグ付けがある程度進んできた段階で、藏本くんから試しに好きな写真を選んでみてほしいと頼まれてやってみたんです。30年以上この事業を続けてきて、このような診断は初めてでしたが、自分でも気づいていなかった好みをAIが示してくれて、新しい気づきがありました。こうしたAIと人間の対話は面白いし、多くの人にとって楽しいものになりそうだという印象を持ちましたね。

ChatGPTを活用したマッチング精度向上やシステムの転用販売へ

Q. 「Replan SUMAIナビ」にAIを導入したことによる具体的な成果はいかがですか?

藏本様:本格運用が始まったばかりで、これからではありますが、サイトでの資料請求の件数が増加しましたし、ユーザー登録システムを導入したので、ユーザー登録も増えてきています。もっともっと増やしていきたいので、広告運用などを通して認知を広げる取り組みも進めています。

また、システムとしての転用販売も考えており、他社さんに協力いただきながら販路開拓も行っています。東京のイベントに出展した際は、今回のAI技術や仕組みに対して興味を持っていただけて、それなりの反響があったと思っています。

三木様:ようやく形になったという段階ですので、これから地道に育てていくことになります。

「Replan SUMAIナビ」ではユーザーに登録していただくだけでなく、弊社のクライアントとなる工務店や設計事務所にも参画していただく必要があるので、そこはアナログで少しずつ広げていくしかありません。時間はかかるかもしれませんが、ユーザー体験が次のユーザー体験の導火線になっていく、そういうタイプの商品だと考えています。一度使えばその良さを分かってもらえるでしょうし、いろんな人が工夫しながら新しい使い方を見つけてくれるのではと期待しています。

Q. 最後に今後の展開を教えてください。

藏本様:AIの精度を向上させるためには、スタイル等のタグ付けの精度を上げていく必要があると感じていますが、別のアプローチとして昨今話題のChatGPTなどの活用も検討しています。ユーザーが画像を選ぶだけではなく、ChatGPTを利用して例えば「心が落ち着く家が好き」とテキストで入力すると、より好みに合致する写真が推薦される、という仕組みを調和技研さんにご提案いただいたので、そういう展開も面白いかなと考えています。

また先ほどお話ししました、システムやAIの転用販売に向けて市場調査などを水面化で始めていますので、こちらも進めていきたいです。

三木様:弊社の資産を活用するという意味では、AIを使って住宅写真が持つメッセージ力をどこまで高められるかに注目しています。

また地域経済という観点で、北海道内の企業が連携して新しい取り組みにチャレンジする良いモデルケースになるのではと考えています。北海道はフロンティアですから、みんなで面白いことをしよう!挑戦しよう!いう気持ちは共有できると思っています。Replan事業にはサイトだけでなく様々なチャネルがありますので、今後も一緒に新しいことに挑戦していきたいですね。



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