ノウハウ

AI画像生成の法的リスク(後編):著作権侵害を回避するために

目次

こんにちは、皆さん!株式会社調和技研でAI画像グループにてお客様のAIの開発・導入支援を担当しておりますTakuma Suzukiです。

今回は、画像生成AI(プロンプトを入力して画像を出力するAIのこと)のビジネス活用に携わる方に向けて、生成AIの法的リスクについて解説します。用語でわからないところがあれば、下記の前編で著作権法について解説しているので、そちらを参照してください。

AI画像生成の法的リスク(前編):著作権法の基本を学ぼう

私は法律の専門家ではありませんが、AI開発サービスを提供する側として、権利関係やリスクを理解しておく必要があるという立場から記事を書いています。ご自身が商品として使う際の最終的な判断や法的根拠を求める場合は、弁護士や社内の法務部にご確認ください。また今回の記事は、日本の著作権法に基づきますので日本国内での利用を想定しています。

※この記事の内容は、文化庁の著作権課が実施した令和5年度の著作権セミナー「AIと著作権」[1][2]の情報(2023年12月21日の時点で確認できている情報)を元に記載しています。

AIと著作権の基本的な考え方

AIと著作権については、「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」を切り分けて考えること、そして「生成物が著作物になるか」を考慮する必要があります。 

それぞれ異なる考え方が存在しますので、理解しておきましょう。以下に、各要素の概要を記載し、その後に詳細な説明をしていきます。

画像生成AIの開発(学習)段階における著作権について

  • AIの学習目的でWeb上から画像やテキストを収集する行為は、一般的に合法だが、例外も存在する
  • 著作物を学習用データとして収集・複製し、学習用データセットとして配布も合法だが、これも例外が存在する

画像の生成・利用段階における法的考慮事項

  • 生成した画像等をアップロードして公表、または生成した画像等のイラスト集を販売する場合、出力されたものが合法であるか違法であるかは、その内容による

AIによって生成された画像は「著作物」に該当するか?

  • AIに単純な指示を出し、その出力となるものには、著作権が存在しない
  • 生成の指示に独自性が認められる工夫があった場合、著作権が存在することとなる

AI開発と学習段階における著作権法の考慮事項

AI開発における情報解析は、著作権法第30条の4(平成30年改正)の権利制限規定により、原則通り許諾なく可能です。 ただし「著作権者の利益を不当に害する可能性がある場合」等は、原則通り許諾が必要となります。簡単に言えば、「AIモデルの開発のために、ネット上にある画像を収集して学習させることは(一部を除いて)合法である」ということです。

文化庁資料より一部引用

具体的な例を挙げて合法か違法かを示します。

■ スクレイピングによるWeb上のデータの収集(複製)
 → 法第30条の4に従って合法

ただしAIの学習のために収集することとは別に、スクレイピングの行為自体が違法となるケースもあることも記載しておきます。

  • サーバーに負荷をかけてしまった場合
  • スクレイピングによって個人情報を同意なく取得、公開、販売してしまった場合
  • 収集先サイトの規約で禁止されている場合

■ 作成した学習用データセットをWeb上で公開(公衆送信)
 → 法第30条の4に従って合法

ただし、データセットを販売している場所や規約で禁止されているサイトから収集した、AIの学習目的でのデータは、著作権者の利益を害することとなり違法に該当します。また学習に伴いデータを享受する目的※がある場合は30条の4に該当しません。
※享受する目的についての具体的な例は「法第30条の4における著作物の複製と享受目的」の項をご覧ください。

法第30条の4が規定された背景には、「技術革新により大量の情報を収集し、利用することが可能となる中で、イノベーション創出等の促進に資するものとして、著作物の市場に大きな影響を与えないものについて個々の許諾を不要」とするデジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方がありました。具体的には、文化審議会[3]が著作物の利用行為を以下の3つのカテゴリに分類し、そのうち1と2について柔軟性を確保した規定を整備したのです。

  1. 著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為
    (これは情報通信設備のバックエンドで行われる利用に該当。具体例として、Webサイト上で表示される画像を、引用のためにダウンロードして表示することなど)
  2. 権利者に及びうる不利益が軽微な行為
    (所在検索サービス・情報分析サービス)
  3. 著作物の市場と衝突する場合があるが、公益的政策実現のために著作物の利用
    (引用・教育・障害者・報道)

AI開発において、情報解析のために文章や画像を複製するといった行為は、通常の著作物の使い方ではなく、著作権者から対価を享受している実態がないため、著作権者の経済的利益を通常害するものではないと認識されています。そのため「非営利目的か否か」「研究目的か否か」を問わず、著作権者の許諾を不要としています。 

文化庁資料より一部引用

法第30条の4における著作物の複製と享受目的

この法第30条の4でのポイントは「データを享受する目的」という部分です。「データを享受する目的」の具体例が、2023年12月11日に文化庁著作権課の文化審議会で議論がされた内容が資料[4]にまとめられています。

以下のような目的で学習データとして使うことは「データを享受する目的」に該当するため違法となる可能性があります。

  • 学習データをそのまま出力させることを目的としたファインチューニングを行うための著作物の複製等
  • 学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うための著作物の複製等
  • 生成AIを用いて出力させることを目的として著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の著作物の複製等

例えば、最近、生成AIを用いてブラックジャックの新作[5]が発表されました。こちらの生成AIに関しては、手塚治虫氏の作品の著作権管理を行う手塚プロダクションから許諾を得ての学習となっているため問題はありません。

一方、これと同じような生成AIを作るために、法第30条の4があるからといって、許諾を得ずに学習をすることは「学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うための著作物の複製等」に該当すると考えられます。

前編の記事では、「作風」は著作権法上の権利の対象とならないと述べました。これは著作権法で保護しないことで「新たな文化の発展に寄与する可能性」があるからでした。ですが、上記のような「作風を学んだ生成AI」が著作物として大量に出回ることで市場が圧迫され、本来、著作権者が得るはずだったはずの仕事が奪われ不利益が生じ「創作活動の委縮」につながるようであれば問題が出てきます。この辺は現在も慎重かつスピーディーな議論が続いているため継続して情報収集していく必要があります。

AI生成画像の利用段階での著作権侵害リスクの回避方法

AIを利用して生成した場合でも、その利用が著作権侵害となるかどうかは、人がAIを利用せず絵を描いた等の場合と同様に判断されます。

つまり「AI利用者が既存の著作物を認識しており、AIを利用してこれに類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められるか」が判断基準となります。侵害となる場合は、損害倍書請求や差止請求、刑事罰の対象となります。

具体的な例として、以下のようなプロンプトを入力してAIに画像を生成させたとしましょう。

「Wizard with sword and a glowing orb of magic fire fights a fierce dragon Greg Rutkowski(剣と球形に光る魔法の炎を持った魔法使いが凶悪なドラゴンと戦う  グレッグ・ルトコフスキ)」

このプロンプトのGreg Rutkowski[6]という部分はアーティスト名です。これは明らかに依拠性に該当するプロンプトとなるため、著作権侵害になる可能性が高いです。とはいっても「依拠性」の有無は最終的には裁判所によって、個別の作品ごとに判断されます。

既存の著作物と類似性がある生成物を利用する際は、著作権者の許諾を得て利用することで回避することが可能です。

例えば、画像生成AIのプロンプトには以下のようなルールを設けることで、著作権侵害した画像を生成することを高い確率で回避することができます。

  • プロンプトに作家名や作品タイトルを入れない
  • プロンプトに映画の監督名、タイトル、登場人物、俳優の名前などを入れない
  • 他人の著作物を image2imageで入力しない
  • AIモデルが生成したキャラクター等の画像を自分の作品として公開しない
  • 生成した画像は素材として活用する(無加工のまま公開しない)
  • 公開する場合はAIで生成したことを表記する

また以下に生成段階における、支分権を表した図も載せておきます。

文化庁資料より一部引用

学習時に法的に問題がなくても使用にリスクは残る

生成AIモデルから出力された画像を利用する場合、次のような著作物侵害のリスクもあることを考慮することが必要です。著作権の問題をクリアしたデータで学習をした生成AIモデルであれば、モデルで生成した画像を商用利用しても、著作権はクリアしているモデルだから問題ないと対外的に説明することはできます。ですが、クリーンな生成AIモデルを使っていても「著作権者から許諾を得ていない既存著作物に酷似している画像」が生成される可能性があるため、著作権侵害のリスクは残り続けます。そのため、どのようなモデルを使おうとも出力物のチェックは必要となります。

AIが生成した画像が著作物になる条件

AIが自律的に生成したものは、著作物に該当しないと考えられますが、 「創作意図」と「創作的寄与」があり、人が表現の道具としてAIを使用したと認められる場合は、著作物に該当すると考えられます。

具体的な例で見ていきましょう。

著作物に該当しない場合

人が指示を与えず(もしくは簡単な指示を与えるだけで)「生成」のボタンを押すことでAIが生成したものは著作物に該当しません。

下の画像は実際に画像生成AI(AdobeのFirefly)を用いて作成してみました。「red Apple」という非常に単純なプロンプトで出力した画像であり、これは著作物に該当しないため、私に著作権はありません。

著作物に該当する可能性がある場合

一方で、人が思想感情を創作的に表現するために「道具」としてAIを使用したものと認められれば、AI利用者が著作者になります。

それが認められるかどうかの基準としては、文化審議会第5回「AIと著作権に関する考え方について(素案)」[7]のP.18で述べられている、著作物性を判断するための次の4つの要素が参考になります。
※詳細は原文をご覧ください。

  1. 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
  2. 生成の試行回数
  3. 複数の生成物からの選択
  4. 生成後の加筆・修正

Adobe Behanceで公開されている作品[8]を例に考えてみましょう。こちらは生成AI(Adobe Firefly)を使って作ったイラストのコンテストの作品です。

この作品において上記1〜4の要素を実施していることは明らかで、「著作物性がある」であろう例として非常にわかりやすいと思います。(著作物性ありなしの判断は私ができるものではないためこのような表現となります。)

ここでは簡単な例を挙げましたが、AIを利用した画像生成には様々な条件や過程が考えられます。著作権のあり方に関しては、多くの判例などを確認して自衛していくことが大切になると考えられます。

著作権訴訟の最新動向

以下に著作権に関連する最近のニュースなども紹介しておきます。

海外ではAI企業がアーティストから訴えられていることもあります。この分野はまだ発展途上ですし、また日本国内と海外では法律が異なります。行為地(学習やサービスを実施する場所(リージョン))の様々な判例やガイドラインを継続的にウォッチすることが重要になるでしょう。

判例:「AI生成アートに関する著作権訴訟、米国の裁判官がアーティストに逆風」[9]

  • アーティストがAI企業に対して集団訴訟を起こし、却下された。 
  • 著作権登録がない画像については、訴訟が却下された。 
  • AIが生成した画像がアーティストの作品と類似している証拠がなければ、著作権侵害にはならないと裁判官は述べた。

文化庁検討内容:「AIと著作権に関する考え方について(素案)」[7](2023年12月20日の時点)の要約

  • 画風も著作権として含めるべきではないか?
  • 法第30条4に従って、学習のために著作者に許諾を得ずに学習してもよいことになっているが、どのような場合がよくて、どのような場合がNGかの解釈を文化庁からもっと明言すべきではないか?
  • 法第30条4が適応されない事例として「個人に特化した生成AIモデルを作ること(意図的な過学習をさせる行為)」が挙げられた
  • ユーザーが違法にアップロードする等した権利侵害物を学習データとして使うことはNG

AI開発企業としてできること

これまで説明してきたように、AIの学習には著作者に許諾を得る必要はありませんが、その出来上がったAIモデルを使用して生成されたものには著作権侵害となるリスクが含まれています。そのため、パブリックドメインとして公開されている画像や、著作者から許諾を得たデータのみを使用したクリーンなAIモデルの開発や利用が今後重要となってきます。そのため学習元のデータの理解や使用するAIモデルの素性をきちんと把握することが我々のようなAI開発企業にできることかと考えています。

ルールやリスクを正しく理解してAIを有効活用

以上、画像生成AIの開発、導入、利用に関連する著作権の問題について説明してきました。改めて、本記事でのポイントをまとめます。

  • AIの学習目的でWeb上から画像やテキストを収集する行為は、一般的に合法だが、例外も存在する
  • 生成した画像等を商用利用する際は、出力されたものが合法であるか違法であるかは、その内容による
  • 法的な問題(著作権)をクリアにしたデータを元に学習された生成AIモデルを作成や利用することが今後重要となってくる

画像生成AIは非常に便利なツールであり、ビジネスに取り入れることで多くのメリットが得られます。しかし、その利用にあたっては著作権侵害のリスクが伴います。そのリスクを避けるためには、AIの仕組みや法的な規定を理解し、適切な利用方法を身につけることが重要です。

私たち株式会社調和技研では、AIの開発・導入支援を行っています。著作権やリスクについての深い理解をもとに、お客様のビジネスに最適なAIの活用方法をご提案します。お困りのことがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

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【参考文献】

[1]「令和5年度著作権セミナー『AIと著作権』」YouTube動画 

[2]「令和5年度著作権セミナー『AIと著作権』」PDF資料 

[3] 文化審議会について | 文化庁 

[4] ⽂化審議会著作権分科会法制度⼩委員会における議論の状況について 

[5] 生成AIとヒトが制作した「ブラック・ジャック」掲載の週刊少年チャンピオン発売 制作過程も紹介 

[6] Greg Rutkowski:https://www.artstation.com/rutkowski 

[7] 文化審議会第5回 AIと著作権に関する考え方について(素案) 

[8] 【MAX Challenge 2023】Dream Bigger 

[9] 控訴事例:US judge deals blow to artists in copyright suit over AI-generated art 

記事を書いた人
鈴木 卓麻

画像系AIの開発に従事。2002年立命館大学理工学部卒。写真現像機の開発、プリントシール機の開発を経て2022年8月に調和技研に参加。二児の父。子育てのために京都からフルリモートワークが可能な会社を探していたら北海道の調和技研に出会う。最近はPTA活動と競技ドッジボールの審判が忙しい。