ノウハウ

AI画像生成の法的リスク(前編):著作権法の基本を学ぼう

目次

こんにちは、皆さん!株式会社調和技研でAI画像グループにてお客様のAIの開発・導入支援を担当しておりますTakuma Suzukiです。

今回は、画像生成AI(プロンプトを入力して画像を出力するAIのこと)をビジネスに使いたいが不安があるという方に向けて、著作権やリスクについてご紹介します。長くなりますので、前編は著作権法について、後編は生成AIの法的リスクについて、分けて解説していきます。 

なお、私自身は法律の専門家ではありませんが、サービスを提供する側として、権利関係やリスクを理解しておく必要があるという立場から記事を書いています。ご自身が利用する際の最終的な判断や法的根拠を求める場合は、弁護士や社内の法務部にご確認ください。また今回の記事は、日本の著作権法に基づきますので日本国内での利用を想定しています。

※この記事の内容は、文化庁の著作権課が実施した令和5年度の著作権セミナー「AIと著作権」[1][2]の情報を元にまとめています。

画像生成AI技術のビジネス利用における”危険性”

2023年9月13日、Adobe社が提供する画像生成AIサービス「Firefly[3]」が商用利用可能となりました。大手がこのように商用利用可能と明言して発表したことは画期的だと思います。

これまでプログラミングができる一部の人たちが利用してきた画像生成AIですが、使いやすいインターフェースを備え、ログインするだけで利用できるようになったFireflyのサービスが提供されたことで、画像生成AIの一般化が加速すると考えられます。既に、インターネット広告の一部には画像生成AIで作られた画像が使われ始めており、身近なものとなってきています。

このように普及が進む画像生成AIですが、AIによって生成された画像に関係する「著作権」や「リスク」について十分な理解せずに利用すると、炎上などによるレピュテーションリスク(企業イメージを損なうこと)や権利侵害による損害賠償請求・差止請求に伴うサービス停止などを招く恐れがあるため注意が必要です。

そこで前編では、その前提となる「著作権」について理解を深めていきましょう。

著作権侵害とは何か

簡単に言うと、著作権者から許可を得ないとできない行為をして、閲覧、私的使用のための複製等「権利制限規定」にも該当しない場合、その利用は著作権侵害となります。

具体的な例として、SNSなどで他人の写真や画像(イラスト)を無断で「拾い物」と称して自分のアイコンに使用するような行為が該当します。

著作権侵害について、以下の観点でより詳細に見ていきたいと思います。

  • 著作権法の目的
  • 著作物とは
  • 著作権者とは
  • 類似性・依拠性とは

著作権法の目的

著作権法の目的は、著作物の「公正な利用」を考慮しつつ、「著作者等の権利の保護」を目指し、新たな創作活動を促進し、「文化の発展に寄与すること」ことです。

  1. 「著作者等の権利・利益を保護すること」
  2. 「著作物を円滑に利用できること」

これら二つのバランスを取ることが重要とされています。

著作権法は「著作物」を保護します。では「著作物」とは何でしょうか?

著作物とは

「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、芸術、美術または音楽の範囲に属するもの」と著作権法第2条第1項第1号に定義されています。

著作物と認められるものは、著作権者が独占的に利用でき、その権利は創作から原則死後70年まで有効です。

しかし、一つの作品内でも、著作物と認められる部分と、そうでない部分が存在します。 

文化庁資料より一部引用文化庁の資料によると「著作物ではないもの」は「単なる事実・ありふれた表現」と「表現ではないアイディア(作風・画風など)」が該当します。

「アイディア」を保護対象とすると、後発の新たな創作・表現活動が妨げられる可能性があるため、「アイディア」は著作物に該当せず、著作権法では保護されません。

このことから、著作権を保護しないことが、新たな文化の発展に寄与する可能性があると理解されています。

例えば、19世紀に印象派の画風が登場した際、新たな画風に触発された多くの画家が側索活動に取り組み、文化の発展が促進されました。もし、この画風が著作物として保護されていたら、印象派の画風がこれほどまでに発展することはなかっただろうと考えられます。

著作者とは

「著作者」とは、著作物を創作した者を指します。著作者は、著作物を創作した時点で自動的に「著作権」を取得し、「著作権者」となります。(法第17条第1項、第2項)

生成AIで作ったコンテンツの著作者は誰か、そもそも著作物になるかについては、後編のAIが生成した画像が著作物になる条件で解説します。

著作者の権利

著作者の権利には、複製、上演、演奏、上映など著作物の利用の形態ごとに権利(支分権[しぶんけん])が設定されています。しかし、「閲覧」や「記憶」などの一部の行為は、著作権者の許諾を得ることなく使用できます。第三者が著作物を利用する場合、その利用行為に対して著作者の持つ権利が働きます。したがって、「どのように利用をすると、どのような権利が働くか」を理解することで、著作権を侵害せずに著作物を利用することが可能となります。

文化庁資料より一部引用

例えば、書籍を出版する場合は、それぞれの利用行為に対して次のような権利が働きます。

  • 印刷・製本する →「複製権」
  • 書店で販売する →「譲渡権」
  • ネット上にアップロード → 「公衆送信権」

そのため、それぞれの利用行為ごとに、「利用許諾が必要か?」「権利制限規定内の利用か?」と検討する必要があります。

文化庁資料より一部引用

創作物が著作権侵害と判断される基準

創作物が著作権侵害に該当するかどうかは、下記の4つの要素(要件)で判断されます。

  1. 元ネタ(似ている)と思われるものが著作物であるかどうか
  2. 著作物が保護されている期間かどうか
  3. 許諾が要るかどうか(類似例と依拠性)
  4. 権利制限規定に該当するかどうか

この中で3の判断が難しいため、次に判断基準の詳細と事例を記載します。

著作権侵害の要件:類似性[るいじせい]と依拠性[いきょせい]について

3の許諾が要る行為にあたるかどうか(パクり→複製権や翻案権を侵害していないかどうか)を判断する要件として裁判例により下記の2つが挙げられています。

  • 「後発の作品が既存の著作物と同一、または類似していること」 、これを類似性といいます。
  • 「既存の著作物に依拠して複製等がされたこと」、これを依拠性といいます。

これら両方が満たされ、かつ1,2,4の判断基準を満たしている場合に「著作権侵害に該当する」となります。

類似性についての例

「類似性」とは既存の著作物との共通部分が「表現上の本質的な部分や特徴」か、「アイディア」か、「単なる事実」かが重要です。

具体的な例として、平成12年(ネ)第4735号損害賠償等請求控訴事件[4]の「ケロケロけろっぴ事件」を取り上げます。

右図の作者が、自分の作品をサンリオ社(左図)が盗作したのではないかと訴えた事件です。カエルの表現として、デフォルメして目を大きく描くなどの手法は一般的であることから、類似性が否定されたものです。

 依拠性についての例

「依拠」とは、「既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること」を指します。

具体的な事例として、東京オリンピックの公式エンブレム[5]のケースが最近では有名です。詳細については文末にリンクを載せていますので、興味のある方はご覧ください。

著作権を正しく理解してAIを活用しましょう

以上をまとめると、著作権の基本を下記のように整理できます。

  • 著作権とは、著作物を創作した時点で自動的に「著作権」を取得し、「著作権者」となる
  • 著作権侵害とは、著作権者から許可を得ないとできない行為をして、例外規定(権利制限規定といいます)にも該当しない場合の利用
  • 創作物が著作権侵害に該当するかどうかは、以下の4つが関わる
    • 元ネタ(似ている)と思われるものが著作物であるかどうか
    • 著作物が保護されている期間かどうか
    • 許諾が要るかどうか(類似例と依拠性)
    • 権利制限規定に該当するかどうか

これを踏まえて、後編ではAIと著作権について考えていきましょう。

画像生成AIは非常に便利なツールであり、ビジネスに取り入れることで多くのメリットが得られます。しかし、その利用にあたっては著作権侵害のリスクが伴います。そのリスクを避けるためには、AIの仕組みや関連する法令を理解し、適切な利用方法を身につけることが重要です。

私たち調和技研では様々なAIの開発・導入支援を行っていますが、著作権やリスクについての深い理解をもとに、お客様のビジネスに最適なAIの活用方法をご提案します。お困りのことなどありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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【参考文献】

[1]「令和5年度著作権セミナー『AIと著作権』」YouTube動画 

[2]「令和5年度著作権セミナー『AIと著作権』」PDF資料 

[3] Adobe Firefly 

[4] 類似性の事例:裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan 、LEC出る順シリーズ事件 どこまでも行こう vs. 記念樹 事件 けろけろけろっぴ事件 The Wall Street Journal事件 

[5] 依拠性の事例:結局何だったのか、今だから理解しよう東京オリンピックロゴ問題 

記事を書いた人
鈴木 卓麻

画像系AIの開発に従事。2002年立命館大学理工学部卒。写真現像機の開発、プリントシール機の開発を経て2022年8月に調和技研に参加。二児の父。子育てのために京都からフルリモートワークが可能な会社を探していたら北海道の調和技研に出会う。最近はPTA活動と競技ドッジボールの審判が忙しい。