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専門家向けNLP解説:vol.1 NLPとは

目次


NLPとは:自然言語処理の全体像をやさしく見渡す 

NLP(自然言語処理)は、人間が日常的に使っている「言葉」をコンピュータに理解させ、役立つ形で活用するための技術と研究の分野です。検索や翻訳、要約や対話など、今では
生活や仕事の多くの場面で自然に使われています。ここでは、NLPの成り立ちから基本的な仕組み、そして大規模言語モデル(LLM)へとつながる最新の動きまでをやさしく整理してみましょう。 


NLPの目的とは? 

NLPのゴールはシンプルに言うと「言葉を理解して、言葉を作り出すこと」です。 

理解の側面では、文章を分解したり、文法や意味をつかんだりして、「誰が」「何をしたか」といった構造を明らかにします。生成の側面では、翻訳や要約、対話のように、人間が自然だと感じるテキストを生み出します。 



歴史をふりかえる 

NLPの歴史は、大きく三つの段階に分けられます。 

まず1950〜1980年代は「ルールベース」の時代です。言語学者が作った文法規則や辞書を
頼りに処理をしていましたが、例外が多すぎて大規模な運用には向きませんでした。 

1990年代から2010年代前半にかけては「統計的手法」が中心になります。大量のテキスト(コーパス)を集め、確率的に処理するやり方です。n-gramモデルやHMM、CRFなどが
この時代の代表格で、翻訳や形態素解析の精度が一気に上がりました。 

そして2010年代後半からは「深層学習」の時代に入ります。Word2VecやLSTM、そしてTransformerをベースにしたBERTやGPTなどが登場し、文脈理解や長文処理が可能になり
ました。現在のChatGPTなどのLLMは、この流れの延長にあります。 



NLPの基礎的な処理 

日本語の文章をコンピュータに扱わせるには、まず前処理が必要です。 

  • 形態素解析:文を単語や品詞ごとに区切る(「私は学生です」→「私(名詞)」「は
    (助詞)」「学生(名詞)」「です(助動詞)」)。
  • 構文解析:単語同士のつながりや文の構造を把握する。
  • 固有表現抽出(NER):人名や場所、日付など特定の情報を取り出す。
  • 意味役割付与(SRL):動詞とその対象(誰が何をしたのか)を整理する。

これらは単なる前処理に見えますが、検索や要約など応用タスクの土台になっている、
とても重要な技術です。 



言葉をベクトルで表すという発明 

NLPを飛躍的に進化させたのが「分散表現(埋め込み)」の考え方です 

昔は「単語は単語」でしか扱えませんでしたが、Word2VecやGloVeといった手法により、
単語をベクトル(数値の並び)として表現できるようになりました。これによって「王 − 男 + 女 ≈ 女王」といった意味的な関係が数学的にとらえられるようになったのです。 

さらにBERTやGPTなどのモデルは「文脈によって単語の意味が変わる」ことも表現できる
ようになりました。
これにより多義語の処理や、長い文の理解がぐっと自然になりました。 


どんな応用があるのか? 

NLPはすでに多くの分野で使われています。 
検索では、単語一致から意味に基づく検索へ進化しました。 情報抽出では、契約書や判例、論文から「当事者」「日付」「請求内容」といった項目を抜き出せます。 
翻訳は、ルールベースから統計翻訳、そしてニューラル翻訳へ。いまではDeepLのように、ほぼ自然な訳が得られるようになっています。 
要約やQAでは、長い文章から要点を取り出したり、質問に直接答えたりできるようになりました。 
対話システムも進化を重ね、予約や問い合わせに特化したものから、ChatGPTのように幅広い会話に対応できる汎用型が登場しています。 
さらに音声処理と組み合わせれば、音声認識や音声合成を経てスマートスピーカーのような製品が生まれます。 



LLMがもたらした変化 

近年の最大の変化は、大規模言語モデル(LLM)の登場です。従来は「形態素解析 → 情報抽出 → 検索 → 要約」といった処理をそれぞれ別々に実装していました。しかしLLMは、一つの巨大なモデルの中でこれらを統合的に扱えるようになりました。 

LLMは数十億から数千億のパラメータを持ち、大量のテキストから学習しています。そのため、翻訳や要約、文章生成や推論までを一貫して実行できます。ただし課題もあります。計算コストが大きく、誤った情報(いわゆる「幻覚」)を答えてしまうこともあります。また、学習データに依存するため、偏りや倫理的な問題も指摘されています。 



これからのNLP 

今後のNLPには、いくつかの方向性が考えられます。外部の知識グラフやラベル体系と統合し、正確さを高める試み。リソースが少ない言語でも処理を可能にする技術。法律や医療、金融といった領域に特化したモデルの開発。そして、テキストだけでなく画像や音声、動画まで扱えるマルチモーダルなNLPの発展です。 



まとめ

NLPは「言葉をコンピュータに理解・生成させる」ための技術であり、ルールベース、統計的手法、深層学習、そしてLLMへと大きく発展してきました。形態素解析や構文解析といった基盤技術は、検索や翻訳、要約や対話といった多様な応用を支えてきました。いまやLLMはそれらを一つにまとめ上げ、NLPを新しいステージへと押し上げています。 


記事を書いた人
ヘルフリック純華(Sumika Helffrich)

コンピュータサイエンス専攻の学部生です。 AIと言語処理の分野に今後も関わっていきたいと思っています。 漫画やボカロが好きで、よく気分転換に楽しんでいます。