専門家向けNLP解説:vol.3 検索
検索:言葉から意味へ、そして答えを見つける技術
インターネットを使うとき、多くの人が最初に頼るのは検索エンジンです。「近くのカフェ」「安いスマホ」「雇止め 判例」。こうしたクエリを入力すれば、関連する情報が一覧で返ってきます。けれども実際に欲しいのは、リンクのリストではなく「自分にとって役立つ答え」です。検索はNLPの中でも最も身近で実用的な分野であり、技術的にもこの20年で大きく進化してきました。
ここでは、検索の仕組みとその発展、そして要約や質問応答とのつながりについて見ていきましょう。
キーワード検索の時代
最初の検索はとてもシンプルでした。文書を単語ごとに分解し、その出現頻度を数えて、
クエリに含まれる単語が多く登場する文書を「関連度が高い」とみなす方法です。
代表的なのが TF-IDF という手法で、「よく出るけれど特徴的ではない単語(例:は、の、する)」は重みを下げ、あまり出ないけれど特徴的な単語には高いスコアを与えます。その後に登場した BM25 は、このアイデアをさらに改良し、いまでも多くの検索システムで使われています。
この時代の検索は「単語の一致」がすべてでした。たとえば「安いスマホ」と検索しても、「低価格スマホ」や「格安スマホ」といった言い換え表現までは拾えませんでした。
意味検索への移行
2010年代に入ると、検索は「単語」から「意味」へと大きく進化します。
そのきっかけとなったのが、単語分散表現(Word Embeddings) です。Word2VecやGloVeなどによって単語を数値ベクトルで表現できるようになり、似た意味の単語は近い位置に配置されるようになりました。
さらに、文全体をベクトル化する Sentence-BERT や Universal Sentence Encoder などが登場し、「文章同士の意味の近さ」を測れるようになります。これを利用したのが ベクトル検索(Dense Retrieval) です。文書やクエリをベクトル空間に変換し、近いものを探し出すという仕組みです。
このおかげで「安いスマホ」と検索すれば「格安携帯」「低価格端末」といった言い換えも見つかるようになりました。
ハイブリッド検索の登場
とはいえ、ベクトル検索にも弱点があります。曖昧なマッチは得意でも、数値や固有名詞などピンポイントの一致が必要な場合にはBM25の方が正確です。そこで近年は ハイブリッド検索 が注目されています。
これは、BM25のような従来型(疎ベクトル)検索と、ベクトル検索を組み合わせ、両方の長所を活かす方法です。こうすることで、言い換え表現にも強く、正確な一致にも対応できるバランスの良い検索が実現します。
法律や医療のように「専門用語の一致」と「文脈上の意味」の両方が大事な分野では、このハイブリッド検索が特に威力を発揮します。
検索と要約・QAのつながり
最近は、大規模言語モデル(LLM)が検索にも影響を与えています。
特に注目されるのが RAG(Retrieval-Augmented Generation) という仕組みです。これは、まずベクトル検索で関連文書を探し、その文書をLLMに渡して要約や回答を生成させるという方法です。
RAGによって、単なる「文書の一覧」ではなく「根拠つきの答え」を返すことができるようになりました。ChatGPTやPerplexityなど、最新のAIサービスの多くがこの仕組みを取り入れています。
ただし課題もあります。生成結果が正確であるとは限らず、「幻覚(hallucination)」と呼ばれる誤った情報をもっともらしく答えてしまうリスクもあります。そのため、検索の根拠を明示したり、知識ベースと組み合わせたりする工夫が欠かせません。
専門分野での活用
検索技術は専門分野でも力を発揮しています。
法律分野では「事案の類型」や「争点分類」といった正規化ラベルを活用し、より精度の高い判例検索が可能になっています。医療分野では、症例記録から類似事例を検索し、診断や治療の参考にすることができます。ビジネスの現場でも、社内文書やマニュアルを検索して必要な情報を即座に引き出す仕組みが導入されています。
これらの領域では、検索精度だけでなく「なぜこの文書が選ばれたのか」という根拠を示すことが重要です。信頼性のある検索は、専門家の意思決定を支えるための前提条件だからです。
まとめ
検索は「単語の一致」から始まり、「意味ベースの検索」へと進化し、さらに要約やQAとつながることで「答えを返す」方向に進んできました。いまやBM25とベクトル検索を組み合わせたハイブリッド検索が主流となり、さらにLLMによって検索と生成の境界が曖昧になりつつあります。
これからの検索は「情報を探す」だけでなく、「答えを届ける」技術へと変わっていくでしょう。
コンピュータサイエンス専攻の学部生です。 AIと言語処理の分野に今後も関わっていきたいと思っています。 漫画やボカロが好きで、よく気分転換に楽しんでいます。
関連記事
専門家向けNLP解説:vol.1 NLPとは
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
Behind the Product 〜 生成AIを使った製品開発の舞台裏
- インタビュー
- AIWEO
- ChatGPT
- 生成系AI
OpenAI Agent SDK vs. Google ADK (前編)
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
- 数値系AI
手書き訂正などが書き込まれた書類の、LLMを使った読み取り実験
- ChatGPT
- 生成系AI
- 画像系AI
最適化AIの進化 :LLMを使用した献立修正
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
- 数値系AI
AI初心者がGPT-4oで挑戦!文化庁の表記ルール、守れる?【インターン体験記 パート②】
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
AI初心者がGPT-4oで挑戦!日本語の誤字脱字はどこまで直せる?【インターン体験記 パート①】
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
Titans - Googleが描く「長期記憶型AI」 :Titans: Learning to Memorize at Test Time を斜め読み
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
ChatGPTのAPI利用料金比較|最新モデルo3-proも検証
- ChatGPT
- 言語系AI
- 生成系AI
OpenAI o3 & o4-mini:推論性能が向上した AIモデルの特性
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
LLM:量子化とファインチューニング
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
AI導入を成功させる!データ準備の完全ガイド
【MoA】 ローカルモデルを組み合わせてgpt-4o-miniと同等の性能?「Mixture of Agents」を試してみる
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
「Gemini 2.0 Flash Thinking」の画像入力を試してみる
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
人間のフィードバックによる強化学習とデータセット構築
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
OpenAI Canvas - AIと共同作業を加速する新たな作業空間 -
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
AI Agent Vol.3【Agent の 学習と評価】
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
Google のLLM「Gemini 2.0 Flash Thinking」を試してみる
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
【GroqCloud】 爆速回答!?GroqCloudの実力とは
【まとめ】GPT-4.5 登場!史上最強のAIモデルがリサーチプレビューを公開
- ChatGPT
- インタビュー
- 生成系AI
- 言語系AI
AI Agent Vol.2【Agent の 4つの要素】
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
Google のLLM「Gemini 2.0 Flash」を試してみる
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
2024年 年末のAI関連発表について
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
OpenAIが公開したLLMの事実性を評価する指標「SimpleQA」でモデルを測定してみた
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
AI導入に必須!PoC(概念実証)を成功させる進め方とポイント
The AI Scientist:AIによる論文の自動生成|さまざまな研究テーマを提案させてみる
- 生成系AI
- ChatGPT
- 言語系AI
AI Agent Vol. 1【Single AgentとMulti Agent】
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
AI活用成功に導く「AI導入アセスメント」とは――数理最適化AI事例をもとにポイントを解説
Llama 3 の日本語継続事前学習モデル「Llama-3-ELYZA-JP-8B」を試してみる
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
「戻れない変化」を生み出し続ける。コンサルを通して見極める業界DX実現への道筋
- インタビュー
- 生成系AI
- ChatGPT
サステナビリティ領域で活躍するAI―SDGs×AI活用事例
- 数値系AI
- 画像系AI
MetaのオープンLLM「Llama3.2 3B-Instract」の精度を検証してみた|GPT4o-miniとの比較あり
- 生成系AI
- 言語系AI
OpenAIの軽量モデル「GPT-4o mini」を試してみる
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
Microsoft「GraphRAG」とLangchainの知識グラフを活用したRAGを比較
- ChatGPT
- 言語系AI
- 生成系AI
Langchain+Neo4j で「GraphRAG」を実装してみる
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
数理最適化ソルバー活用事例|組合せ最適化で社内交流会の班分けを自動化
- 数値系AI
GoogleのマルチモーダルLLM「Gemini.1.5 Flash」の精度を検証してみる
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
3次元点群データを用いた物体検出
- 画像系AI
GPT-4oを活用した画像検索システムの構築方法
- 画像系AI
- ChatGPT
Pythonコーディングを簡単に|LangChainで効率化【LLMことはじめ Vol.2】
- ChatGPT
- 言語系AI
- 生成系AI
Microsoft 365 Copilot:AIによる業務効率化の革新
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
Google のオープンLLM「Gemma」を試してみる|GPT-3.5 Turboとの比較あり
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
3次元点群データとAIを用いたオガ粉の体積計測
- 画像系AI
Llama 3 の日本語継続事前学習モデル「Llama 3 Youko 8B」を試してみる|他LLMとの比較あり
- ChatGPT
- 言語系AI
- 生成系AI
RAG(Retrieval Augmented Generation)を「Command R+」で試してみた|精度をGPT-4 Turboと比較
- ChatGPT
- 生成系AI
- 言語系AI
Wood Powder Volume Calculation using Point Cloud Data and AI
- 画像系AI
Dify(ディファイ)をGoogle Cloudにデプロイしてみた
- 生成系AI
“Azure OpenAI”で始めるPythonプログラミング【LLMことはじめ Vol.1】
- 生成系AI
- 言語系AI
- ChatGPT
Combating the Malicious Use of AI-Powered Image Editing: A Deep Technical Dive
- 生成系AI
- 画像系AI
最新版「GPT-4 Turbo」を試してみた|GPT-4oとの比較あり(5/14追記)
- ChatGPT
PrecisionとRecallを何度も調べ直さないために
- 言語系AI
Stable Diffusion+LoRAを使って異常画像データを生成できるか検証してみた
- 生成系AI
- 画像系AI
大規模言語モデルによるソースコード生成:GitHub CopilotからCopilot Xへの進化と未来
- 生成系AI
- 言語系AI
AI導入の前に知っておくべき基礎知識(後編)――効率的に自業務にAIを導入するための4ステップ
- 数値系AI
- 画像系AI
- 言語系AI
配達ルート最適化AIにより作業時間80%削減を実現。成功の鍵は“人とAIの調和”
- インタビュー
- 数値系AI
AI画像生成の法的リスク(後編):著作権侵害を回避するために
- 生成系AI
- 画像系AI
AI画像生成の法的リスク(前編):著作権法の基本を学ぼう
- 画像系AI
- 生成系AI
AIというツールを使い 「生命たらしめるもの」が何かを見つけたい【調和技研✖️AIの旗手 Vol.4】
- インタビュー
AI導入の前に知っておくべき基礎知識(前編)――AIのキホンと活用事例
- 数値系AI
- 画像系AI
- 言語系AI
AIアルゴリズムの構築には、 課題の本質を見極めることが重要 【調和技研✖️AIの旗手 Vol.3】
- インタビュー
CNNで浮世絵画風変換はできるのか――Ukiyolator開発ストーリー Vol.2
- 画像系AI
- 生成系AI
住宅写真という資産をAIで利活用し、工務店とお客様をつなぐ新たなビジネスを創造
- インタビュー
- 画像系AI
- ChatGPT
シフト最適化への応用が期待される強化学習を用いた組合せ最適化の解法
- 数値系AI
多彩なサービスと紐づく「交通」の課題解決で地域の活性化や住みやすさの向上を【調和技研×AIの旗手 Vol.2】
- インタビュー
AIプロダクトを開発する際に考えるべき品質保証のキホン
- 数値系AI
- 生成系AI
- 画像系AI
- 言語系AI
Microsoft GuidanceでのFunction Calling機能の使い方とその特徴
- ChatGPT
- 言語系AI
Segment Anything Model(SAM)を使いこなそう!パラメータ設定のポイントも徹底解説
- 画像系AI
Stable Diffusionを使って異常画像データを生成できるか検証してみた
- 画像系AI
- 生成系AI
基礎から解説!数値系異常検知の概要と代表的な手法
- 数値系AI
実践!ChatGPT×Slackの具体的な連携方法と日常業務での効果的な活用事例
- ChatGPT
- 言語系AI
- 生成系AI
最先端AI技術で浮世絵を現代に再現する――Ukiyolator開発ストーリー Vol.1
- 画像系AI
- 生成系AI
PaDiMとPatchCoreどちらを選ぶべき?異常検知モデルの選択肢を見極めるポイント
- 画像系AI
社内の暗黙知を可視化するナレッジネットワークでイノベーションが生まれやすい環境に
- インタビュー
- 言語系AI
人の幸せや社会の豊かさに、AIをいかに「調和」させるか【調和技研×AIの旗手 Vol.1】
- インタビュー